Xmas[2012](by.七重様)

「なー今日ってさあ、何の日か知ってる?」
デスクチェアの背もたれを一定のリズムで動かしながら、何気に話しかけた。

 あーいい椅子だなあ
 スプリングが程良くてさあ
 座りっぱなしだと腰にくるからなあ...

キィキィと、椅子が軋む音に耳を傾けながら、そんなことをぼーっと考える。

カタカタカタ...

ぼーっと考えている合間にも、聞こえてくるのはキータッチ音のみで、返事はない。
「なあってばーー、聞いてるー?」
勢いよく椅子を回転させて背後にいる人物に再び話しかけるが、
相手はディスプレイから視線を反らすことなく、黙々とキーボードを打ち続けている。
「なあってーーーー」
「―インターネットで12月24日と打ち込めば、心優しい誰かが答えてくれます」
しつこく催促したら、あっさりとした返答で会話終了。
「...いや、まあそうかもしれないけどぉ」
「まだ、何か?」
キーボード上を動く指がさっきよりも一段と速く、キータッチ音もさっきより大きく響き出した気がする。
極めつけは、相手の声のトーンが恐ろしく低いこと。
そこから導き出された結論は、一つで......
「......なんか怒ってる?」

タンっ!!!!

壊さんばかりの勢いでenterkeyが押される。
さすがにその音にはびくりと身体を弾かれた。
「....怒ってるかって言いました?」
相手の視線がディスプレイからようやく自分へと向けられた。
向けられた真っ黒い瞳が遠慮なしに自分を射抜かんばかりに見つめている。

 あ、俺が映ってるや
 こいつの目って真っ黒で、意外に珍しいよなあ

そんなことを思いながらマジマジと瞳を見つめ返した。
「自分が昨日何したか、もう忘れたとでも?!」
「あーーそれかぁ」
「!!!あんたのせいで!!俺は明日からどうやって会社に行けと言うんですか?!」
「えー普通でいいんじゃない?」
「?!普通って...あんたはどういう神経してるんですか!!」
「...こーいう神経」
未だ怒り冷めやらない相手の唇を強引に塞いでやる。
...もちろん、自分の唇でだ。

「?!!!!!!!!」

予想外だったのか抵抗する力もなく、俺を凝視している。

 あ、目ぇまんまるにして可愛いなぁ

その表情に満足したので、あっさりと唇を放してやる。
しばらくぼうっとしていたが、ようやく思考が戻ってきたのか真っ赤に顔を染めた。
「だってさあ、お前の同僚とか後輩とかウザいんだもん。
 クリスマスパーティとか冗談じゃないっつーの。
 なんで俺以外と過ごさせなきゃいけないの?」

「!!だからって、あんなところで!!!!!」



* * * * *


仕事が予定より早く終わったので、驚かせようと彼の会社まで迎えに行った昨日。
オフィスを出た所で数人の人間と話す彼の姿を見つけて、ラッキーと思ったのも束の間...
「えー新庄さん、一緒に行きましょうよ」
「そうそう、独り者同士集まってワイワイ騒ぐのも楽しいぜー」
「赤坂のワインバー、お前も行きたいって言ってただろ?」
「みんなでクリスマスパーティーしましょう!」

苦笑する彼の腕に自分の腕をからめる女。
彼の頭をポンポンと軽くたたく男。

自分の中で何かがプツンっと音を立てるのが聞こえた気がした。

「....ごめんねー放してくれるかなぁ?」

彼に抱きつく女から、
彼を愛しむように頭を撫でる男の手から、
奪うように引き放し、自分の中に抱きとめた。

「え?」
「誰だよ..あっ!あんた....」
「?!!」
突然現れた俺に怪訝そうにしてた彼らだが、少しして『俺』に気づく。
そんな一瞬を見逃すことなく、惚けた彼らに見せつけるように彼の額に軽く口づける。
唖然と口を開けたままの彼らを見て、目だけで笑って見せた。

「悪いけど、先約済みなんでね」




* * * * *



「じゃあさぁ、俺と一緒にいるよりあいつらと一緒にいたかったってこと?
 せっかく俺、一生懸命休み取ったのにさあ...」
「そ、そういうことじゃなくって...!」
「でこちゅーより唇が良かったって?」
「!?そんなことっ...!!」
「うそだよ、分ってる。俺に気づかってくれたんでしょ?」
彼を覗き込むように顔を下げるが、彼はその視線を避けるようにうつむく。
「...絶対気づかれました......」
「いいよー別に。誰に気づかれても」
「あんた...芸能人なのに、あんなことしたら...」

 んーー芸能人っていうかモデルなんだけどなあ
 そういうの疎いからなあ
 全部一緒の括りなんだろうなあ

スキャンダルを心配してくれる彼が可愛くて、愛しくて、
今すぐぎゅーって抱きしめたくなる。

「俺はさ、大丈夫だよ。それぐらいで潰れたりしないし」
「......」
「そんなことで、理衣が俺のそばに居てくれない方がつらいんだけどな」

とっておきの声で囁いて抱きしめて、
俺だけを感じてもらって。
嫌なこと全部忘れて、俺のことだけを考えてほしんだ。
「理衣、俺は理衣が好きだよ?理衣は?」

 照れ屋で素直じゃないお前が、返事をしてくれるのはあと何分かなぁ

「理衣の言葉で教えてよ?ねぇ、俺のこと好き?」

 クリスマスっていう大義名分を使ってさ。
 ちょっとは素直になってくれるといいんだけどな。

 ねえ、理衣?




■新庄理衣(しんじょう さとい)
 普通のサラリーマン。
 クールに見えるが、敬語がクセの感情表現が苦手なだけ。 

■????
 TVとかにも出まくってるモデル
 普段はなんかゆるいけど、仕事のときはやる子。










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